IPAガイダンス
(1) IPAってなーに
「IPA」は「 International Phonetic Alphabet 」(国際音声記号)の略称。いわゆる「発音記号」というやつです。英語の辞書で出てくる [ə] などは、IPAの記号のうちの一つですね。
IPAは英語に限らず、世界中の様々な言語の発音をそこそこ正確に説明・理解するために便利な記号です。「口を大きく開けて口を丸めて発音」などと説明されると大変難しく感じるのですが、システマティックに定まったIPAを基準に「[ɒ]の発音」と言われると、「あぁ、[ɒ]ね」と簡単に理解できます。
(2) IPAのチャートを見てみよう
まずは以下のリンクから、お手元にIPAのチャートをご用意ください。
https://www.internationalphoneticassociation.org/IPAcharts/IPA_chart_orig/pdfs/IPA_Kiel_2020_full.pdf
(もとはhttps://www.internationalphoneticassociation.org/content/ipa-chart)
ずらっと並ぶ摩訶不思議な記号と意味不明な英語に、初見では面食らうはず…。でも実際のところ、デデキント切断よりは大したことないです。
この表で見るべきは、上段の「CONSONANTS」(子音)の表と、中段右の「VOWELS」(母音)の台形の図です。残りは基本どうでもいいです。お察しのように、子音の発音と母音の発音についてそれぞれ説明してある感じです。
<CONSONANTS(子音)のところの見方>
子音の発音は、IPAチャート基準だと、3つの区分を用いて分けることができます。
(そもそも子音というのは、息の流れを妨げて発音する音のことです。)
①発音場所(息を妨げる場所)
②息の妨げ方
③ voiced(有声)かvoiceless(無声)か
①は、(顔を横から見たときに)発音場所は口の前なのか後ろなのかという話です。例えば「かきくけこ」の子音「k」だけ発音してみましょう。なんとなく口の奥のほうで発音してる感じですよね。一方で「ばびぶべぼ」の子音「b」だけ発音してみましょう。2つの唇をくっつけて発音してますよね。
このような区分が、この表では縦の列となっています。Bilabical、labiodental、Dental、Alveolar…などとなっている区分です。[k] は Velar(軟口蓋)、[b]はBilabical(2枚の唇)という区分にあたります。各区分の詳細はのちほど。
②は、息の流れをどのように扱って発音しているかという話です。例えば「なにぬねの」(の子音)は、息を鼻に抜けさせていますね。一方で「さしすせそ」(の子音)は、舌と上あごに少しだけ隙間を開けて、そこから息を通しています。
このような区分が、この表では横の行となっています。Plosive、Nasal、Trill…となっている区分です。[n]はNasal(鼻音)、[s]はFricative(摩擦音)という区分にあたります。各区分の詳細はのちほど。
③は簡単ですね。日本語で言うなら濁点がつくかつかないか、です。「たちつてと」と「だぢづでど」の子音(tとd)は、のどに手を当ててみるとdのほうだけ振動が伝わります。このように声帯が震える子音をvoiced(有声)、そうでない子音をvoiceless(無声)として区分します。[t] はvoiced、[d]はvoicelessです。
この表では、マスの左側が無声音、右側が有声音となっています。
※補足:インドなどの言語だと、表の下側に書かれている中の「h」(aspirated=有気音)という記号が発音上きわめて重要になってきますが、ロシア語など多くのヨーロッパ言語では覚えなくていいです。
<VOWELS(母音)のところの見方>
母音の発音も、別の3つの区分を用いて分けることができます。
(そもそも母音というのは、息の流れを妨げないで発音する音のことです。)
①舌の一番高いところの位置(前後)
②口の開き具合(舌と上あごの接近具合)
③口を丸めるか丸めないか
①は、(顔を横から見たときに)舌のいちばん高い位置がどこかという話です。例えば「う」という音は舌の奥のほうが高くなりますよね。一方で「い」は「う」よりも舌の高い位置が前な気がします。
このような区分が、母音の表では縦の列になっています。FrontーCentralーBackという区分です。各区分の詳細はのちほど。
②は簡単です。「あ」と「い」では口の開き方が違いますよね。この表では横の行になっています。CloseーClose-midーOpen-midーOpenという区分です。各区分の詳細はのちほど。
③は少し日本語的には難しいですが理解は簡単です。口を丸めるか丸めないかだけなので。
この表では、同じ位置にある2つの記号のうち、丸めている方(rounded)が右側、丸められていない方が左側になっています。i・yとあるところでは、[i]は口を丸めないほう(「イ」ですね)、[y]は口を丸めて発音する音です。
(3) IPAの詳細
なにぶん発音の説明ですので、文章だけだとあまり身に付きません。参考になりそうなYouTubeの動画のリンクを貼っておきますので、ここからは以下のリンクのビデオ等を視聴してみてください。
- 母音の解説1 https://youtu.be/u7jQ8FELbIo
- 母音の解説2 https://youtu.be/UMAVKA887dI
- 子音の解説1 https://youtu.be/dfoRdKuPF9I
- 「母音の解説1」と同じ人。
- 「母音の解説1」と同じ人。
- ロシア人がIPAの全子音解説してみた https://youtu.be/_fNkfR0XUdI
- ロシア人によるIPA解説。最初英語だけど途中から全部ロシア語で説明されます。自動翻訳の字幕をONにして視聴することをおすすめします。
- ロシア語の発音もついでに理解できます。
- IPA全部発音してみた https://youtu.be/OGYGDQgeh2c
- IPAの図 https://github.com/open-source-ideas/ideas/issues/58
- どこで発音するかが一目瞭然。
- どこで発音するかが一目瞭然。
- Interactive IPA Chart: https://www.ipachart.com
- 発音記号をクリックすると発音してくれる便利なサイトです。
- かなり詳しめのサイト: https://utsugi-phonetics.com/phonetics_introduction/articulatory_phonetics/
- ゆる言語学ラジオ音声学の回 https://youtu.be/MP4j-hA8e-U
- 言わずと知れた名番組ですね。
- 言語学オリンピック日本代表によるIPA解説 https://youtu.be/j1MoHGJU8dw
- ちょっと変なのまで扱ってます。
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